理事長挨拶
HAB研究機構理事長就任挨拶
HAB研究機構理事長
猪口 貞樹

このたび、寺岡慧理事長の後任として、HAB研究機構の理事長を拝命致しました猪口です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。 私がHAB研究機構に関わるようになったのは、2014年、HAB研究機構(深尾立理事長)が上智大学の町野朔名誉教授を委員長として開催した第二次人資料委員会に、当時日本救急医学会の理事長であった島崎修二先生の推薦で、委員として参加し、医療現場の立場から意見を述べたことがきっかけです。 本邦では、1997年に「臓器の移植に関する法律」が施行され、脳死下の臓器提供が行われるようになりました。一方、当初は小児の臓器提供が認められておらず、このため米国等へ渡航して移植を受けるお子さんもおられました。また、成人に対する移植用臓器の提供も、多くは心停止後に行われ、提供臓器も限られていたことなどから、国外で臓器移植を行う成人も多く、これを有償で斡旋する行為もあって国際的な問題になっておりました(移植ツーリズム)。 このような状況に対して、国際移植学会と国際腎臓学会は、2008年、各国の関係諸機関からなる会議を開催し、臓器移植に対する倫理問題について合意を形成して「イスタンブール宣言」を行いました。同宣言は、国際社会で広く共有されるものとなり、本邦においても翌2009年に「臓器の移植に関する法律」(以下、改正臓器移植法)が改正されました。 HAB研究機構は、2005年に雨宮浩会長のもとで、研究用臓器・組織の提供に関する諸問題を検討するための委員会(第一次人資料委員会)を設置いたしました。さらに法的、倫理的問題を専門的な観点から確認するため、町野朔教授を座長とした「移植用臓器提供の際の研究用組織の提供・分配システムの構想に関する準備委員会」に検討を依頼、同準備委員会は2008年まで3年間にわたって議論を行い、報告書を公表いたしました。 臓器移植法が改正されるまで、本邦の脳死からの臓器提供の多くは心停止後に行われ、主に腎臓が提供されていたため、これを前提に研究用組織提供の議論が行われていました。一方、2009年の改正臓器移植法によって、家族の同意による脳死下の臓器提供が可能になり、多臓器の提供が増加するとともに、小児の臓器提供による心臓移植なども行えるようになりました。このような改正臓器移植法に伴う状況の変化を踏まえ、HAB研究機構は2014年から第二次人資料委員会を開催し、改めて法的・倫理的問題を整理することになったため、私もそこへ参加したものです。 さらに2019年から、私はHAB研究機構の理事として研究倫理委員会の委員長に就任し、ヒト組織を用いた研究の倫理審査に関わってきました。この年には、「疫学研究に関する倫理指針」と「臨床研究に関する倫理指針」が統合、さらに2021年には「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が統合されて、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」となりました。その後も個人情報保護法との整合性などのために、繰り返し同指針の改正が行われて現在に至っております。 今後様々な新規技術が開発されても、疾病の新しい治療法や医薬品を開発するうえで、ヒトの組織は欠かすことのできない重要な要素であり続けると思います。法律や倫理面での様々な規制に適合しつつ、新しい治療法の開発が行えますよう、豊島・木内両副理事長ならびに事務局の方々と共に、研究者を支援していければと考えております。