「重松昭世先生を偲んで」


 11月25日にHAB研究機構の創始者である重松昭世先生が亡くなったとの突然の訃報に接しました。ここ2年くらいはお会いしませんでしたが、お元気でお過ごしになっていたと思っていただけに残念でなりません。先生は、以前から米国で実施されていた非臨床と臨床試験の架け橋となるヒト組織の有効利用について、日本でも推進すべきであることを提唱し、1994年に大学、企業の有志とともに「HAB協議会」を創設しました。HABはHuman and Animal Bridgeの略称です。丁度その頃、小職は千葉大学を定年退職する年だったので、重松先生のお招きでHAB協議会の活動をお手伝いすることになりました。新事業の展開に際しては、先生が社長を務めていた「株式会社 生体科学研究所」の建物の一部をお借りし、事務局とHAB附属研究所の業務は同社の社員の皆さんにお願いしました。
 ヒト組織の供給については、国内では臓器移植法などの法律により研究目的への使用が禁止されているので、先生は米国のNational Disease Research Interchange(NDRI)と交渉し、1996年には国際協定を締結するまで尽力されました。NDRIから供給されるヒト組織は、米国内で亡くなった脳死患者の中で、移植不適合の臓器について遺族の同意の下で合法的に日本に輸送されるものです。また、ヒト組織の利活用に関する米国内の現状を知るために、重松先生と共に数人でFDAを訪問しHAB協議会の活動について発表したのも忘れられない想い出です。
 一方、国内の法整備を確立するために、重松先生はHAB協議会の初代会長であった宍戸 亮先生(元・国立予防衛生研究所長)や小職などと共に頻繁に厚生省の関係部局に陳情に伺いました。それが引き金になって、黒川 清教授を委員長とするいわゆる「黒川委員会」が立ち上げられ、ヒト組織の有効利用について本格的に検討を開始しました。その結果、平成10年には厚生省から薬物動態試験に関わる新ガイドラインが公布されました。その中には、新薬開発における動態試験の中で、ヒト肝臓を用いたデータの提示が明記されました。
 2013年は「HAB協議会」が設立されてから20年目になります。重松先生の優れた先見性と驚くべき実行力について改めて感謝するとともに、今日の我が国におけるヒト組織の有効利用の礎を築かれた先生のご功績に謝し、会員各位とともに心よりご冥福をお祈り申し上げます。
HAB研究機構附属研究所長 千葉大学名誉教授
佐藤 哲男